2022.06.21
Trend & Illustrations #12/吉岡ゆうこが描く「The Centered Self」
アドビではビジュアルのニーズを様々な角度から分析を行い、そのトレンド予測をトレンドリポートとして毎年発表しています。
2022年のビジュアルトレンドをテーマに、東京イラストレーターズ・ソサエティ会員のイラストレーターが描きおろした作品のコンセプトやプロセスについてインタビューする連載企画「Trend & Illustrations」。
第12回目のテーマ「The Centered Self」を、洗練された人物像を特徴的で美しいフォルムで描く吉岡ゆうこさんに、作品について伺いました。
プロフィール
東京生まれ、東京在住。
武蔵野美術大学短期大学部空間演出デザインコース卒業。
PALETTE CLUB第1期~3期イラストコースを経て、主に女性誌・広告・書籍・企業PR誌などで活動。「エレガントな女性・男性像、ユーモアとウィットに富んだイラストレーション」をモットーに制作している。
主な仕事に共著本『絵で楽しむフランス語[会話フレーズ]』(学研プラス刊)、東急百貨店広告各種広告媒体(2002年〜2015年)など多数。現在PALETTE CLUB講師。
atelier-fabrique
https://www.tis-home.com/Yoshioka-Yuko/
武蔵野美術大学短期大学部空間演出デザインコース卒業。
PALETTE CLUB第1期~3期イラストコースを経て、主に女性誌・広告・書籍・企業PR誌などで活動。「エレガントな女性・男性像、ユーモアとウィットに富んだイラストレーション」をモットーに制作している。
主な仕事に共著本『絵で楽しむフランス語[会話フレーズ]』(学研プラス刊)、東急百貨店広告各種広告媒体(2002年〜2015年)など多数。現在PALETTE CLUB講師。
atelier-fabrique
https://www.tis-home.com/Yoshioka-Yuko/
今の自分がもっとも共感できるテーマ
──2022年のビジュアルトレンド「Powerfully Playful(パワフルでプレイフル)」、「The Centered Self(自分自身を中心に)」、「Prioritize Our Planet(この地球を最優先に)」、「in the groove」の中から、セルフケアや癒しなどを意識したテーマ「The Centered Self」を選んだ理由を教えてください。ビジュアルトレンドの内容を説明していただいた中で、一番自分に向いていると思い、迷わず決めました。コロナ禍になって、自分自身を見つめ直す機会が多くなってきましたし、フリーランスなので、基本的には孤独というか、1人で全部やらなきゃいけない。その点でも自分を大切にしなければという気持ちも高まっていて、今の自分自身にグッときたといいますか。一番共感しやすいテーマだったんです。
──どのようにビジュアル作りをされてきましたか?
「自分自身を癒す」ということ、そして「手当」というキーワードが浮かびました。手のひらや指先などを患部に当てて身体の不調を治そうとする手当て療法というのがありますよね。子供の頃、具合が悪かったり寝付けなかったりした時に母に背中をさすられるととても安心しましたし、大人になってからも信頼している人に軽く背中をトントンと叩かれるとスーっと気持ちが楽になったり。そういう経験は誰しもあると思います。 仕事柄、肩や首が凝りやすいので整体にも行きますが、そこでも手技が大切ですよね。 そこで「手」「手のひら」をモチーフにラフを描き始めました。
──制作は具体的にどのように進みましたか?
日頃から、罫線の入ってない小さなノートを持ち歩いて、電車の中でスケッチしたり、カフェでアイデアを書き留めたりしています。程よい雑音や他者の目があるといい刺激になって、アイデアが出やすいんです。今回はそのノートにアイデアラフを3点描きました。1点は子供の頃に飼っていて自分にとっての癒しの象徴でもある鳥と女性の組み合わせのアイデア。想像の余地を作るために、あえて後むきの女性を描きました。手のひらの上を飛んでいるような女の子のラフは気に入っていたのですが、癒しというより、元気な印象が強くなりそうで、構図的にちょっと難しいなっていう気がしました。直接手のひらに癒される方がいいんじゃないかなと思い、手のひらの上の女性のラフが生まれました。
──お釈迦様の手のようでもありますね。
一昨年かな、京都奈良と旅して東大寺で見た仏像の印象も強く残っていたのかもしれませんね。今回のイラストレーションに関しては、手を強調するために複数の手を描こうと思いました。この手は誰の手なのか。自分の手なのか、そうじゃないのか迷ったんですが、「自分自身を癒す」テーマなので、手のひらに乗ってる女性自身の手をイメージしています。重視したのは形の美しさ。どういう角度だったら手が美しく見えるのかを鏡を見て研究しましたし、人物を手に乗せた時に綺麗な構図になるように意識して描いています。
──今回の作品の色彩は配色チャートを参考にされているとお聞きしました。
『配色スタイルハンドブック』という、いろんなカテゴリーに分けた配色サンプルがCMYKやRGBの数値で記載されている本があるんです。いつもは参考程度に見るくらいなのですが、今回は色も大切だなと思ったので「Delicate(繊細)」のカテゴリーの配色を調べました。自分が考えられる範囲の中だけで組み合わせるのは表現を狭めてしまうので、参考にしつつ、でも自分にしっくりくる色合いをピックアップしています。
──ちょっとスモーキーな色合いですね。
例えば赤系と緑系の組み合わせとかはハレーションを起こしそうであまり好みではないんです。原色を使うこともほとんどありません。淡い色合いで、CMYKだったら全てに数値が入っている、少し濁った色、グレーを少し足したような感じが好みです。インテリアでよく使われる「シャビーシック」という、アンティークでシックなイメージを表現する言葉がありますが、そういうのが好きで、インテリアの写真集なども参考にしています。 子供の頃から母親に「色の組み合わせがすごく良いから、それを大切に」と言われていました。幼稚園の頃に通っていた絵画教室の先生から、「この子はちょっと独特の感性があるから、大切にしてあげて」っていうふうに言われたようですね。普段の生活では怒られることが多かったですが、絵だけは褒めてくれましたから。
先輩から学んだことを後輩に伝える
──絵を仕事にするのは自然な成り行きだったんでしょうか。そうですね。元々漫画家になりたくて、中学生の時には漫画雑誌で佳作をとったこともあるんです。自信になりましたが、描くのが非常に大変なので、諦めました。 中学高校は女子美術大学の付属に通っていて、ずっと絵を描いていたのですが高校生の時に演劇の舞台に感動して、舞台美術の道に進みたいと思ったんです。舞台美術のデザインを学べる武蔵野美術短期大学の空間演出デザイン科に入学したんですが、最初の授業で「自分は立体に向いてない」ってことがわかりまして……。パースから立体をおこす授業だったんですが、パースは描けてもそこから3次元がまったく思い浮かばなかったんです。ああ、自分は二次元の人だと。 大学は卒業しましたが就職もせず、広告代理店で営業補佐の派遣社員をやっている時にCMのコンテライター、絵コンテを描く仕事を紹介されてフリーランスで請け負うようになって、同時にPALETTE CLUBに通い始めました。同期には大塚砂織さんや平沢けいこさん、河村ふうこさんたちがいて、友達には恵まれていました。お互い影響し合いながら切磋琢磨して、とても楽しい時間でした。原田治先生や安西水丸先生、森本美由紀先生もご存命で教えていただいた。貴重な体験でした。 今、私はPALETTE CLUBの講師をしているのですが、原田治先生から直接依頼されて、それは嬉しかったです、認めてもらえたのだなと思えて。
──ご自身が受け取ったものを今、生徒さんにはどういうふうに教えているんですか?
元々生徒だったので、最初に必ず言うのが、あなたたちの気持ちがわかりますよっていうこと。寄り添いながら講評するようにしています。生徒の悩みは私の時代も変わらないですね。これからどういうイラストレーションを描いていけばいいのか。普遍的な悩みです。
──その質問にはどう答えているんですか?
自分が言われたことを言ってますね。とにかく枚数を描くことが基本だと。あとは映画や音楽、なんでもいいので自分が好きなものを探すようにと。逆に嫌いなものも見つけなさいとも言っています。自分の嫌いなものがわかると、必然的に好きがわかるような気がするので。実際私自身が実践してきたことでもあるんです。 例えば私は子供の頃から、ポップなアメリカンコミックやアニメーションは苦手だったんです。アメリカンコミックの原色使いがあまりちょっと馴染めなかったりとか。どうしてなんだろうと考えたら、明るくてハッピーなものより、ヨーロッパのくすんだ感じの表現というか、アンニュイな気だるいものの方が好きだったんだなあと逆に気がつきます。
時代とともに意識が変化してきた
──コロナ禍での変化はありますか?コロナ禍前から、対面の打ち合わせはほとんどなかったので、仕事のやり方での変化はほとんどないですね。コロナに直接関係ないのですが、ここ数年、自分自身の表現の方向が徐々に変わってきました。これまでは女性向けのコスメやアパレルなどの仕事の割合が大きかったんですが、年配の方や子供を描くようにしたら、不動産関係や医療系の仕事が増えて分野が広くなりましたね。 2016年に『絵で楽しむフランス語』という本の仕事で、全ページに渡ってイラストレーションを描いたことがきっかけにもなっています。会話の本ですから、さまざまなシチュエーションや老若男女、風景や食べ物まで描かなくてはならなく、それが自信につながりました。編集の方には本当に感謝ですね。
──吉岡さんの作品はオシャレで品が良いと感じられますが、作品作りで気をつけてらっしゃるところはどういうところですか?
全ての人を傷つけずに済むようにというのは無理かもしれませんが、誰が見ても不快にならないようにということは意識しています。今は多様性の時代なので、女性を描く時でも、痩せて綺麗な女性=正義という型に嵌めたくないというか。ちょっとふくよかな女性を描いたり、多様な人物を描きたいと思っています。
──仕事自体もそういうニーズが高まっていますか?
それはまだちょっと難しいところですが、時代の変化の中で自分の意識も変わってきたので、今後はできる限り、その意識を持っていたいと思います。 キャリアがちょっと長くなってきちゃったのですが、焦らずゆっくり構えて、できる限り長くイラストレーターでいたい。現役の諸先輩方がたくさんいらっしゃるのは希望ですね。私が目標にしているのが、上田三根子先生。仕事だけでなく、生き方含め、憧れの女性です。
ARCHIVES
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