2022.05.17
Trend & Illustrations #11/ビオレッティ・アレッサンドロが描く「in the groove」
アドビではビジュアルのニーズを様々な角度から分析を行い、そのトレンド予測をトレンドリポートとして毎年発表しています。
2022年のビジュアルトレンドをテーマに、東京イラストレーターズ・ソサエティ会員のイラストレーターが描きおろした作品のコンセプトやプロセスについてインタビューする連載企画「Trend & Illustrations」。
第11回目のテーマ「in the groove」を、特徴的なフォルムと躍動感を感じる作品を制作するビオレッティ・アレッサンドロさんが描きました。
プロフィール
1986年北イタリア・トリノに生まれる。
子供の頃に祖父が持っていた70年代に出版された日本の写真集を見て衝撃を受ける。
イタリアの文化からは想像できない未知の世界で日本を好きになるきっかけになった。16歳から日本語の勉強を始め、18歳で初来日。2015年5月より日本在住。
フリーランスイラストレーターの活動をしつつ、3年間のデザイン事務所勤務を経て、2019年よりイラストレーターとして独立。
https://alekun.com
https://www.tis-home.com/Bioletti-Alessandro/
子供の頃に祖父が持っていた70年代に出版された日本の写真集を見て衝撃を受ける。
イタリアの文化からは想像できない未知の世界で日本を好きになるきっかけになった。16歳から日本語の勉強を始め、18歳で初来日。2015年5月より日本在住。
フリーランスイラストレーターの活動をしつつ、3年間のデザイン事務所勤務を経て、2019年よりイラストレーターとして独立。
https://alekun.com
https://www.tis-home.com/Bioletti-Alessandro/
見る人を元気に笑顔にしたい
──「in the groove」を選んだ理由を教えてください。今回のビジュアルトレンドは他に、「Powerfully Playful(パワフルでプレイフル)」、「The Centered Self(自分自身を中心に)」、「Prioritize Our Planet(この地球を最優先に)」がありましたが、僕っぽいって思ったのが、「in the groove」だったんです。
ストーリー性があるイラストレーションを描くのが好きで、人物がモチーフだとしたら、 その人が何かアクションを起こしているような、プラスの要素を入れたいと普段から考えています。
「in the groove」は、言葉自体がかっこよかったし、ソウルミュージックやブレイクダンスが好きなので、それをモチーフにしたいと思いました。とにかく楽しいものを仕上げたかったんです。
──躍動感のある動きで、鮮やかな色彩が印象に残ります。
今回の作品はデジタルデータで完成させるので、印刷のCMYKよりもRGBのヴィヴィッドな色合いを意識して、見てくれる人が元気になるようなものを目指しました。普段から明るく、温かみのある色使いを心がけています。
ダンス感、動きが出せるような構図やフォルムを考えましたし、イラストレーションがストックされることから、カテゴリーがわかりやすい、タグ付けしやすいものを加えることも意識しています。
──検索されやすい、多くの人に引っかかりやすいということですね。
はい。あんまり考えてないようだけど、いろいろ考えてます(笑)。
──アレッサンドロさんの絵はパペットのような形で関節が区切られているのが特徴的ですが、あの作風はどうやってできたんですか?
パペットではないんですけどね。あの関節自体は、正直なところ、特に意味はなくて、自分にしか描けないものを考えていて行き着きました。
より深く自分に問うてみたら、「丸い」ものにこだわっていることに気づいたんです。丸と丸を繋げたりするのは以前から描いていて。そういう部分が少しずつ表面化していったというか。自分自身でもうちょっと大切に作ってみようと思った時に、それが強調されてきたんです。自分の心の声を聞いた結果です。
──平面的な表現にこだわっていますか?
昔の作品の方が、立体感を出すようなものを描いていました。余分なものを削っていき、フラットにベタ塗る、今の表現になっています。イタリア人なので、写実的で遠近感のある立体的な絵の文化がDNA的に染み付いているんですけれど、日本の浮世絵のように、平面的でわかりやすくシンプルな方向に今は向いています。立体的な表現にはいつでも戻れると思っていますけれど。
HOW TO DRAW
1. 手描きのラフ。思いついたアイデアはすぐにスケッチブックに描き留める。2. ラフを念頭におき、Photoshop上でペンタブレットで描画。色彩構成を考えることもある。
3. Illustratorで描線をパス化し、着彩して完成。
4. 完成作品
日本とイタリア、どちらの良さも享受する
──アレッサンドロさんにとってイラストレーションを描くこと、イラストレーターという職業はどういうものですか。元々僕は漫画家になりたかったんです。イタリアでちょっと有名な漫画家のアシスタントをやっていたのですが仕事はインクを塗ることばかり。もっと自分の表現をしたくて、2ヶ月後に辞めました。
その時、TISのホームページと出会ったんです。「イラストレーション」と一口に言ってもこんなにもいろんな表現があって、それがクライアントワークでも活かせるし、アーティスティックな部分も出せるんだって気づいたんです。同じテーマであっても一人一人違うのは面白い。
──アレッサンドロさんが日本でイラストレーターとして仕事をするようになったきっかけは?
18歳の時から日本には何度も来ていました。イタリアでグラフィックデザイナーの仕事をしながら、年に1、2回は長期の休みを利用して日本に滞在していたんです。そんな頃、リーマンショックが起こってイタリアでの仕事も少なくなってきましたし、日本からの仕事も少しあったので、これは日本に住むチャンスじゃないかと。そして本当にラッキーなことに小学館から絵本を出すことになりました(『みつけてアレくん! せかいのたび』2014年)。
出版してから、編集者にビザの手続きをしていただいたんです。最初はアーティストビザで1年間滞在して、その後に知り合いの紹介でデザイン事務所に入社、そのまま日本に住むことになりました。そこではデザインだけでなく、アニメーションや映像の仕事も勉強できて。フリーのイラストレーションの仕事が増えてきたので、2019年からは完全に独立してフリーランスとしてやっています。
──プロフィールに、70年代に出版された日本の写真集を見て日本に興味を持ったとありますが、具体的にどんな写真だったんですか?
祖父の本棚にあった、イタリア人のジャーナリストが日本で撮影したものです。普通の人の暮らしや街並み、建物やアート、工場の写真とか、幅広く日本を撮影したものでした。それを見てカラフルだなって思ったんですよ。これを言うとみなさんに「イタリアの方がカラフルでしょう」と驚かれるんですが、僕が育ったトリノは工場の町で冬は霧だらけ。グレーで包まれているから。
──イタリアや欧米と比べると、日本のイラストレーションの表現の幅は広いでしょうか?
7歳ぐらいから日本が好きなので、僕のフィーリングが合っている、というのが要素として大きいかもしれません。アメリカやヨーロッパのイラストレーションでいいと思うものもありますが、あまり好きじゃなくて。日本のポップカルチャーというか、イラストレーションの方が、気が合うってことなのかもしれません。
仕事はアメリカでもできたらいいなと思うこともありますが、今は日本がメインですし、東京だけじゃなくて、例えば神戸とか広島とか、地方の仕事もやって全国で僕の絵を見てもらえたらなと思います。イタリア人だから依頼しましたというのは今ではごくわずか。この絵がいいと思って依頼したら、たまたまイタリア人だった、そんな風な仕事が増えていて、人種も関係なく、人として付き合いましょう、仕事をしましょうとなってきているのが嬉しいですね。
──コロナで生活様式が変わって、どこにいても、どこの国の仕事、どこの地域の仕事もやりやすくなったのではないでしょうか?
そうですね、僕がイラストレーターを始めた20年くらい前に比べると環境は違います。コロナで大変なことはたくさんあるんですが、良いところも見つけたいと思うし、どこでも仕事ができるようになったのはいいことだと思います。日本に来たばかりの頃は世田谷区に住んでるからかっこいいなとか、それこそデザイン業界では名刺に渋谷区って入れたいとかありましたが、今はそんなことはないんじゃないかな。どこでもネット環境さえあれば仕事はできますね。
──家族ができたことで作品に変化がありますか?
当然あります。作品を作ったら妻に見せるんですが、大阪人なのではっきりしていて、悪かったら悪い、ちょっと面白くないなって言われたりもしますよ。
──落ち込んだりするんですか?
まったく落ち込まないです。いや、逆にプラスアルファとして受け入れています。妻はメークアップアーティストでイラストレーションに詳しくないから、一般の人の感覚で意見を言っていると思うので。だから指摘された部分は、それまでの自分の考えをちょっと変えてみたり。
同じく3歳の子供にも聞いたりしますよ。この間もタコに色をつけるのに、やっぱり赤かな、でもオレンジ色にしようかなと考えている時に息子がスタジオにやってきたから「これどうする? どんな色にする?」って聞いたら「黄色」って。「ああ、いいね」って、実際それでうまくいきました。
やっぱり家族が大切な存在です。僕の絵を見て「好き?」って聞いたらすぐに「うん」って言ってくれるのも、すごく嬉しいことですし。
──家族の客観的な視点を受け入れているんですね。
自分の世界だけにとどまっていたら成長しないと思います。アーティストは自分の世界にいることが大切な部分もあると思いますが、イラストレーターは社会の中にいる存在だから、もっと周りの意見を大切にするのがいいんじゃないかな。
僕らしさで言うと、やはり異文化からきた人間の視点はあると思います。今は薄まっているかもしれないけど。仕事を始めたばかりの頃は、日本人にはわかりにくいという指摘も受けましたし、そこはもうちょっと調整しなきゃいけないかなと今も思っています。ユーモアとかは今でも違いがありますね。
日本語もそうですけど、表現や人付き合いとか、失敗を重ねて成長したっていうか。自分で言うのは恥ずかしいですが、成長したと思います。
──日本での仕事や生活はいかがですか?
日常の暮らし方はイタリアと違いますし、どちらもいいところも悪いところもある。両方受け入れれば、自分の国のように暮らせるんじゃないでしょうか。受け入れないと、文句ばかり言うことになってしまいますからね。
僕は18歳から日本に来ているので、もはや自分の国のように思っています。日本語はイタリア語ほど話せないし、後からもっといい表現があったと思ったりしますが、今は仕事でも困らないので。仕事のやりやすさでいうと、日本の人は真面目だからやりやすいですね。中には適当な人もいますけど、それはどんな国でも同じ。
日本って不思議で、海外から見るとテクノロジーが発達しているイメージがありましたけど、実際住むと伝統も残っているし、旧式のやり方をしている企業もある。敬語とか年功序列もあるし。そこも興味深いです。だから寿司とか漫画とかだけじゃない、もっと深いところを海外に向けて紹介できたらいいなと思っています。クールジャパンだけじゃなくて、ディープジャパン。それに加えて、日本の優しさとか、思いやりのこととか、物じゃなくてフィーリングを持っていけたらいいと思っています。
──それはアレッサンドロさんが今後やっていきたい仕事のテーマの一つでしょうか?
仕事自体はなんでもやりますよ。絵が好きで好きで仕方ないから。中毒みたいなものですから。絵ばっかり描いてるから、妻は困ってますけどね。早く寝ようとベッドに入っても、ベッドの中でもずっと考えていて、結局寝るのは深夜になったり。家族がいなくて1人だったら、僕は24時間、絵や仕事のことを考えているでしょうね。
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