COLUMN

Trend & Illustrations

2022.10.28

Trend & Illustrations #14/嶽まいこが描く「The Centered Self」

アドビではビジュアルのニーズを様々な角度から分析を行い、そのトレンド予測をトレンドリポートとして毎年発表しています。
2022年のビジュアルトレンドをテーマに、東京イラストレーターズ・ソサエティ会員のイラストレーターが描きおろした作品のコンセプトやプロセスについてインタビューする連載企画「Trend & Illustrations」。
第14回目のテーマ「The Centered Self(自分自身を中心に)」を、イラストレーションをはじめ、漫画作品も発表している嶽まいこさんが制作。作品について伺いました。

プロフィール

 
1985年石川県生まれ。2008年金沢美術工芸大学視覚デザイン専攻卒業。
リクルートのマーケティング局でアートディレクター、同社ギャラリーで企画・制作を経験。現在フリーランスのイラストレーター、漫画家として活動。
“日常の中のふしぎなモノ・コト”をテーマに、個展やグループ展などでも作品を発表。

https://dakemaiko.com/
https://tis-home.com/dakemaiko/

The Centered Self

自分自身の癒しを通して

ーー2022年のビジュアルトレンド「Powerfully Playful(パワフルでプレイフル)」、「The Centered Self(自分自身を中心に)」、「Prioritize Our Planet(この地球を最優先に)」、「In the groove」の中から、「The Centered Self(自分自身を中心に)」を選んだ理由を教えてください。

自分の事として一番共感しやすく、絵にしやすいと思ったからです。以前は会社員でしたが、今はフリーランスのイラストレーターで、自宅が仕事場なので、家に長くこもって作業しがち。一人でいることは好きですが、孤独にならずに時間を過ごすのが日々の課題だったりもします。その中で自分が意識して快適に過ごそうとしているものがヒントになるだろうし、モチーフも探しやすいと思いました。コロナ禍でもあり、自分自身に目を向けるとか、自分を労わるというのを意識せざるを得なかったところがあります。

ーー自分自身を見つめて癒す、快適にしようということで、緑が多い自然の中でゆったりと休憩する感じの絵ですね。この設定を考えられた経緯を教えていただけますか?

「The Centered Self(自分自身を中心に)」というテーマですから、自分を癒すということがすぐに伝わるのがいいだろうと考えました。私自身、自然がすごく好きなので、個人的な趣向も出したいということがあって、緑に囲まれるイメージが生まれました。森の中を歩いてるとか、花が降っているなど、全く違う構図も最初は考えたんですが、だんだんやさしい、見ていて癒されるくらいの感じがいいと思って最終形になりました。

ーー植物は実在のものをスケッチされていますか?

資料や実物を見て描いたということはありません。なんとなくこういう形の植物があるなというイメージで描いています。椰子っぽい感じの植物があるのは、陽気さみたいなものを伝えたかったんです。

ーー周りの植物と比べると、人間が小さいので、スモールライトで小さくなったような雰囲気がちょっと感じられます。

確かにそうですね。小さいはずのものが大きかったり、その逆だったり非現実な縮尺で描くのが好きなので、植物がわっさーと生い茂っている中に人間がちょこんといると、楽しい感じが出るかなと思いました。縮尺率の違いのちょっとした違和感みたいなのを汲んでもらえるといいなと。

ーー最初のラフスケッチはもっと緑色が濃く、完成した作品は色が明るく、輪郭がやわらかく曖昧になっています。

最初は白い服を着た人物を濃い緑の中に配置したのですが、そうすると人物がちょっと目立たないというか地味な印象になったので、服を赤にして目立たせ、それに合うように考えて明るい緑になっていきました。緑は癒しの象徴ですね。鳥や小さな生き物は仲間というか友だちのようなものですが、入れることで世界観が広がると思いました。裸足にしたのも、心地よさが少しでも伝わるといいなと思ったからです。

ーー仕事では具体的なテーマで依頼されることが多いと思いますが、その点で違うことはありますか? 

特に意識はしなかったです。普段イラストレーションの仕事ではわかりやすくゴールを提示されるのですが、今回は個展の作品のような感じ。お題があってそこから深く自分で考える部分がありました。植物を描こうと決めてから自然に自分が描きたいものが出てきました。どんな人が見ても気持ちいいようにという感覚的なところだけを特化させたような気もします。


ーー嶽さんの他のお仕事を見ると、媒体やテーマに合わせてタッチや色調を変えていますね。

依頼いただく時にクライアントからタッチが指定されている場合もあるし、そうでない場合は、相談する中で、タッチサンプルを見てもらったりラフの段階で擦り合わせています。今回のように心地よさを伝えるには、パキッとした線画という感じでもないし、塗り込んだ厚いタッチでもないし。水彩のフワッとして軽い感じが合うと思いました。
ラフ段階ではクリップスタジオというソフトを使っているのですが、今回は色を塗りながら形を探っていきました。

 

ラフ1

ラフ1
 

ラフ2
ラフ2
 

The Centered Self

完成作品「植物にかこまれて休憩する女性」

ストーリー作りが楽しい漫画

ーー嶽さんはイラストレーションの仕事のほか、漫画も描かれるし、個展でオリジナルも発表されていますが、それぞれの制作に対する考え方を教えてください。

イラストレーションは、クライアントのゴールがあるので、そこを目指して、一緒にどういうイメージにするかを考えてより良いものを、向こうに合わせて作っていくっていう感じなんですけど。
一方、個展の方の作品は、自分が描きたいものを優先させることになりますよね。仕事では依頼がなくて描けないようなタッチやモチーフ、テイストだったり、やってみたかったことにチャレンジします。何年かに一度は新しい画材を使ってみたり、新しいモチーフを描いたり。正解がない分、自由にいろいろ何でもやれる場です。

ーー個展では手描きの作品を発表されていますね。

直接絵を見てもらえる機会なので、手描きならではの線や塗りムラの生っぽい感じが見てもらえると面白いかなと思っています。

ーーコンピュータ上で描くのと、手で筆を持ってっていうのと違うアプローチですか。

全然違いますし、どちらも楽しいです。アナログはコントロールしきれなさがあります。特に水彩だとにじみとかを想定通りに出せない。でもその偶然性が面白い。こうじゃなかったけど面白いよねと。デジタルは自由自在に色の検討もできるし、自分の想像しているものを形にしやすいです。

ーー漫画はどうですか?

読んで楽しい面白かったって言ってもらえるようなものを描きたいと思っています。いわゆる日本の王道と言われるような漫画がすごく好きで、自分もストーリーの面白さやコミカルさ、人間の面白さや喜怒哀楽みたいなものを漫画で描きたいと思っています。一方でバンド・デシネのようにフルカラーでしっかりとした絵で見せる漫画も好きなので、そういったものにもいつか挑戦してみたいです。

ーー漫画の場合もコンピュータの制作ですか?

人物の線画はアナログですが、他はデジタルです。今後はすべてデジタルに移行するかもしれません。ペンで描く楽しさがあるので、それを楽しみたい気持ちはありますが、すこし効率が悪いこともあって。

ーー今後の漫画の構想はありますか?

今は特にないのですが、ショートショートが好きなので、短いお話を一つのテーマで描くことを続けていけたらと思ってます。漫画は物語を作ることが楽しいんです。どんなに描いても背景が描き終わらないなとか、ひとりで描いていると大変なこともありますけど。

ーーイラストレーションは1枚で伝えるものですが、漫画は連続で伝える。その点で絵も描き方が変わってきますね。

流れがあるので画面の切り取り方や描き方は全く違います。時間の流れがありますし。
今、絵本の仕事をいくつか依頼されています。絵本は自分にとっては漫画とイラストレーションの間のような感覚があります。時間の流れがあるし、絵として1枚ずつ見せる。子どもたちが理解しやすいように画面の構成をちょっと工夫する必要があったりするのですが、そのあたりは経験が浅いこともあって編集の方に意見をもらいながら進めています。
 

THE NED/2021年

THE NED/2021年
 

大和書房/2021年

大和書房/2021年

アイディアは歩いている時に生まれる

ーー普段の制作についてお伺いします。規則正しい生活ですか?

夜はちゃんと寝る方で、徹夜はできませんね。寝ないと仕事にならないので。午前中、10時頃から仕事を始めてキリがいいところまでやります。12時くらいまでやる時もありますし、夕方までで終わったり。夜はその時々の仕事の状況によって違います。

ーーインスピレーションの源、発想のきっかけにするものはありますか。

これまで描いた漫画は会社勤めしていた時の人間関係がヒントになっていたりします。今はそれがないので、自分自身のことから種を得るしかないんですが。何も思いつかないときは、散歩ばかりしてます。何か思いつくまで歩く。アイディア出るのが歩いてる時が多くて。ほんとに何も出ない時は、近所をぐるぐるぐるぐる歩き続けることもあります。イラストレーションの場合は、写真集や画集や、ネットで資料を集めながら考えます。

ーー今のご自身の制作を形づくってきたような、好きなものはありますか?

これ、というのがなくて、逆にそれがコンプレックスであるような気もします。いつも何かしら探していて、蓄積していく感じ。オタク気質な友だちがいるのですが、彼らの好きなものへの熱量にふれるといつも羨ましくなります。ただ、あえてあげるなら古いものが好きでしょうか。昔から蚤の市を目当てに旅に出たり、ネットを眺めたりしています。そういう気質は少なからず作品に影響しているかもしれません。

 

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