Takayuki Ino
伊野孝行

「鍵・前編」

2010年の夏にHBギャラリーで行われた伊野孝行・丹下京子の二人展「鍵」(谷崎潤一郎原作)より。夫の日記を伊野が、妻の日記を丹下が担当して描いてます。 夫、大学教授。体力の衰えと精力の減退に悩んでいるが、観念的な性的欲求は旺盛。妻の偽善的お上品さに不満をもっている。 妻、郁子。夫と寝床に入ってもただただ受け身の貞淑な妻。 娘、敏子。木村と婚約中。木村が自分より美しい母に興味を持っていることに感づいている。生来のゆがんだ性格から、事を正すよりも混乱させてしまう。 木村、大学助手。 おそらく自分が世に出るために敏子と婚約したと思われる。要領がよく、教授のたくらみにも知らぬ顔で協力する。

クライアント名 : 伊野&丹下

関連サイト : 「鍵・後編」丹下京子のページへ。

  • 一月一日。夫は今まで躊躇していたことも全て日記に書くことにした。妻が盗み読みしていることを願って。
  • 一月四日。妻は書棚の前に落ちている鍵を発見した。実はこれが書棚の鍵だということはとうの昔から知っている。
  • 一月十三日。木村(夫の研究室の助手)が来る。娘の婚約者である彼は、娘より妻に気があるのではないか?
  • 一月二十日。夫がブランデーを強くすすめるので妻は飲み過ぎた。頭痛がする。木村は妻を心配している。
  • 一月二十九日。酔いの回った妻が風呂場で人事不肖になった。木村にも介抱させ、夫は彼の表情を観察する。
  • 妻の体を白光の下で見る。古風な貞操観念の彼女はそれまで暗闇の中でしか許さなかった。木村さん…と妻が呻く。
  • 一月三十日。昨日の事が遠い夢の中の出来事のように感じる。「あれは木村だったのか、夫だったのか…」
  • 一月三十日。木村が見舞いに来た。4人でブランデーを飲む、その後は昨日と全て同じ。また木村の名前を…。
  • 二月九日。敏子が別居を申し出る。静かに勉強したいからと言うが両親の奇怪な行動に愛想がつきたのだろう。
  • 二月十六日。妻が日記をつけていることはどうやら夫も知っていて、しかも盗み読みしているようだ。
  • 二月十八日。昨夜妻が木村の名を4回も呼んだ。夫は確信する。次の日、娘が家を出て行った。
  • 二月十九日。昨日娘は「ママはパパに殺されるわよ」と言った。娘は容姿の点で母にコンプレックスがある。
  • 二月二十七日。夫は木村にフィルムの現像を頼む。木村ほそこに写っているものを見て驚いた。
  • 三月七日。また鍵が落ちていた。夫の日記を見た妻は、そこで自分の裸の写真を見つけた。
  • 三月十日。嫉妬のおかげで欲望は旺盛になった。ホルモン注射の乱用のためか視覚異常と物忘れが激しい。
  • 三月十四日。木村のところで写真を見せられた娘が、母を問いつめにやって来た。
  • 三月十八日。娘の下宿先で妻が倒れた。木村と3人で飲んでいたらしい。夫はタクシーで連れ帰る。
  • 三月十九日。妻が大胆になって行くのは木村のおかげである。夫ははげしく嫉妬しながらも感謝した。
  • 三月二十六日。夫のいない所で妻と木村は会っていた。木村は娘に写真を見せることで共犯者に仕立てた。
  • 三月二十八日。4人の思惑は別々にあるが、妻が堕落するように皆が一生懸命になっている。後編へ続く。

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