ニュース
2010.11.23
美術の属性、そしてイラストレーションのひとつの可能性について<新井夏希展/都築潤展/展示レビュー>
美術手帳最新12月号<http://www.bijutsu.co.jp/bt/>に椹木野衣氏による新井夏希展(@タンバリンギャラリー)の展示レビューが掲載されました!
一部転載させていただきますが、都築潤展「ニューエイドス」(レクトヴァーソギャラリー)と合わせて美術の属性について、および一部イラストレーションの現在と可能性について言及されています。イラストレーションに関心のある人(のみならず美術に関わる人)は是非本誌見開き扱いの全文をお読み下さい!
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正直、今回書く新井夏希については、予備知識がまったくなかっ
た。ふとした経緯でウェブを通じて今回の展覧会について知ったわ
けだが、その時点でパソコンの画面に呼び出された作品(P179
上左)を見ただけで、ぼくにはそれが絵画の未来を切り開きうる未
知のヴィジョンに満ちているように思えたのだ。
しかし、さらに意外だったのは、新井夏希がいわゆる美術界では
なく、イラストレーションの世界で活動している作家だと知ったこ
とだ。もっとも、そうしたありきたりの先入観を持たずに彼の作品
を知ることができたのは、かえってよかったように思う。そもそも、
彼の仕事がイラストに属するかアートに属するかは、実はどうで
もよいことだ。しかし、そう思い切れる絵というのはけっこう珍し
い。多かれ少なかれ、美術作品はそれが美術界に守られていること
で、イラスト作品はそれがイラストレーション界に属していること
で、あらかじめ既存のものとして成り立ってしまっている。が、彼
の作品にはそういう帰属感がまったく感じられなかった。そもそも、
新しい作品には常に、この既存の属性という感覚が大幅に欠けてい
る。ゆえに、見る者はそれがいったいなんなのか一瞬、わからなく
なるような印象を受けるのだ。新井夏希の作品に、ぼくは同様のも
のを感じる。
こうした予感は会場を訪れると、すぐに確信へと変わっていった。
正直、今回書く新井夏希については、予備知識がまったくなかっ
た。ふとした経緯でウェブを通じて今回の展覧会について知ったわ
けだが、その時点でパソコンの画面に呼び出された作品(P179
上左)を見ただけで、ぼくにはそれが絵画の未来を切り開きうる未
知のヴィジョンに満ちているように思えたのだ。
しかし、さらに意外だったのは、新井夏希がいわゆる美術界では
なく、イラストレーションの世界で活動している作家だと知ったこ
とだ。もっとも、そうしたありきたりの先入観を持たずに彼の作品
を知ることができたのは、かえってよかったように思う。そもそも、
彼の仕事がイラストに属するかアートに属するかは、実はどうで
もよいことだ。しかし、そう思い切れる絵というのはけっこう珍し
い。多かれ少なかれ、美術作品はそれが美術界に守られていること
で、イラスト作品はそれがイラストレーション界に属していること
で、あらかじめ既存のものとして成り立ってしまっている。が、彼
の作品にはそういう帰属感がまったく感じられなかった。そもそも、
新しい作品には常に、この既存の属性という感覚が大幅に欠けてい
る。ゆえに、見る者はそれがいったいなんなのか一瞬、わからなく
なるような印象を受けるのだ。新井夏希の作品に、ぼくは同様のも
のを感じる。
こうした予感は会場を訪れると、すぐに確信へと変わっていった。
ーーー<中略>ーーー
しかし、今回あらためて考えさせられたのは、いわゆる現代美術
下で自由な教育を受けた絵画作家たちよりも、その外にいて様々な
ジャンルからの刺激やイメージのデータ化、およびそれが流通する
資本主義下の諸条件に晒された商業イラストレーションの世界のほ
うがーーーむろんそれが一握りであるにせよーーー既存の公募展な
どを通じてプチ団体展化しつつある「現代絵画(別名=平面)」の
世界などよりも、日本でははるかにアートと呼ぶに足る実質を備え
ているのではないかということである。同時期に開かれていた都築
潤の個展「ニューエイドス」(レクトヴァーソギャラリー)を見て
も、やはり同様のことを考えさせられた。
下で自由な教育を受けた絵画作家たちよりも、その外にいて様々な
ジャンルからの刺激やイメージのデータ化、およびそれが流通する
資本主義下の諸条件に晒された商業イラストレーションの世界のほ
うがーーーむろんそれが一握りであるにせよーーー既存の公募展な
どを通じてプチ団体展化しつつある「現代絵画(別名=平面)」の
世界などよりも、日本でははるかにアートと呼ぶに足る実質を備え
ているのではないかということである。同時期に開かれていた都築
潤の個展「ニューエイドス」(レクトヴァーソギャラリー)を見て
も、やはり同様のことを考えさせられた。
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椹木野衣/さわらぎ・のい
美術批評家。1962年生まれ。主著に『日本・現代・美術』、
『戦争と万博』。近刊に『反アート入門』。
椹木野衣/さわらぎ・のい
美術批評家。1962年生まれ。主著に『日本・現代・美術』、
『戦争と万博』。近刊に『反アート入門』。