Kyoko Tange
丹下京子

鍵・後編

2011

2010年の夏にHBギャラリーで行われた伊野孝行・丹下京子の二人展「鍵」(谷崎潤一郎原作)より。夫の日記を伊野が、妻の日記を丹下が担当して描いてます。 前編をご覧になった後、こちらをどうぞ。 老境をむかえた夫は、めっきり衰えた精力をある方法で取り戻すことを思いついた。夫は若い男を妻に近づけた。彼は娘の恋人でもあるのだが…。嫉妬の効用により、夫は目的を果たしつつあるが、貞淑な妻の中では何かが目覚めはじめた。奇妙すぎる四人の関係。その果てにある世界とは。谷崎潤一郎の小説を元に伊野孝行と丹下京子がおくる愛欲の悪夢。

クライアント名 : 伊野&丹下

関連サイト : 鍵・前編 伊野孝行のページへ

  • 三月三十一日。妻と娘と木村は嵐山に遊びに行く。爽快な時を過ごしたおかげで妻はブランデー無しに就寝する。
  • 昨夜、蛍光灯の下で酒の気無しに事を行って成功した事に、夫は異常な興奮をしめした。
  • 三月三十一日。夫は妻が様々な技巧を心得ている事に驚き、興奮する。目眩が激しく、血圧計が振り切れた。
  • 四月六日。妻は木村と会うために昼間家を空けている。夫の頭の中はその好奇心でいっぱいになっている。
  • 四月八日。藤井大丸の前で妻を見かける。真珠のイヤリングをつけていた。いつからそんな趣味を覚えたのか。
  • 四月十三日。夫は妻が木村と一線を越えていないと信じていたが、娘の話を聞いて動揺を隠せず、娘と口論になる。
  • 四月十五日。夫は、今や自分は夜だけ生きている動物、妻と抱擁する以外には能のない動物と化し終わった。
  • 四月十七日。夫婦にとって重大な事件が起きた。夫は事の最中にぐらぐらと妻の体の上に崩れ落ちた。
  • 四月十八日。妻は医者と娘を呼んだ。娘は顔色一つ変えなかった。夫は昏睡状態に入り、夜中に木村がやってきた。
  • 四月十九日。夫は口をあぶあぶ云わせている。きーむーらー、と言っているようにも聞こえる。
  • 四月十九日。「きーむーらー」「きーむーらー」
  • 四月二十日。夜中に裏口から忍んで来る木村と女中部屋で会う妻。それに気づく娘。病室からは夫の鼾が聞こえている。
  • 四月二十一日。病人用の夕食の膳を見た夫が不自由な口を動かす。びーふーてーき、そう云って訴える。
  • 四月二十一日。「びーふーてーき」「びーふーてーき」
  • 四月二十三日。妻の日記が気になるらしく「にーき、にーき」という。妻は日記などつけていないととぼける。
  • それを聞いた夫は口辺に力のない薄笑いを浮かべて「ああ、そうだったか、分ったよ」という風に頷いた。
  • 夫が死んでから妻は日記を書き継ぐ興味と張り合いを失った。
  • 娘と結婚して3人で住むと言う木村。甘んじて犠牲になると言う娘。妻は二人に対しても疑問を持っていた。
  • 妻は夫の死さえたくらむ心に驚きつつも、彼は希望通りの幸福な生涯を送ったのかもしれないと思った。完。

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