第19回 TIS公募

《 審査員総評 》

アルビレオ
イラスト・下杉正子

◆ アルビレオ(ブックデザイナー)
3次審査まではブックデザイナーの立場からお仕事をご一緒したいと思う方を選定しましたが、最終審査で審査員全員で話し合いを重ねていくうちに、純粋に作品としての面白さ、新鮮さを重視する方向に変わっていきました。
TIS公募の独自性を大切にすることで更に幅広い才能が集まる場になればと思います。
実際、今回の審査でも多様な作品に触れることができ、私たちもとても勉強になりました。ありがとうございました。

菊地敦己

◆ 菊地敦己(グラフィックデザイナー)
まずは、こんなに沢山の人が自主的に絵を描いていることに、しみじみとした気持ちになりました。かつてはイラストレーションの主戦場であったペーパーメディアは領土を縮小しているにもかかわらず、それと相関しない不可解な量の出品がありました。スクリーンメディアを意識した作品が目立っているわけでもありません。いわゆる生業とは違う動機によって、絵を描いているように見えます。とても興味深い動向です。
出品作品の多くは、鉛筆、アクリル絵具、水彩絵具などの手描きを基本としたものが大半でしたが、トレンドと言えるようなまとまった傾向はなく、それぞれに固有の形式を模索しているという印象を持ちました。
個人的に興味を惹かれた作品には、コメントを付しました。特に、小川清さん、IQGMさん、春日井さゆりさん、AKOさんの絵には、考えさせられるところが多く、刺激をもらいました。


写真・井上佐由紀

◆ 名久井直子(ブックデザイナー)
たくさんの作品を拝見し、楽しみつつも今の空気感みたいなものを感じさせていただきました。個人的にはとても好きだったのにという作品もたくさんありました。
送られたデータだけが判断材料なので、点数、順番も審査に影響していたと思います。原画を見ていたら、また結果が違ったかもしれません。審査というのは、他の出品者との見え方もありますし、審査員の構成や、気分や、審査の流れみたいなものにも多分に関わっているものです。受賞のみなさんは、これを励みに、さらなる飛躍を期待していますが、残念だったみなさんも、この審査結果だけを鵜呑みにせず、これからも作品を作り続けてくださることを願っています。たくさんの魅力的なイラストレーターたちとお仕事をさせていただいていますが、とにかく描いている方たちばかりです。みなさんとまた仕事でご一緒できる日を楽しみにしています。

芦野公平

◆ 芦野公平
今回初めて審査に参加させていただいた率直な感想として、序盤はある程度客観的な総合評価が通用するものの、最後は個人的な主観に頼らざるを得なくなるという興味深く段階的な体験がありました。そういう部分で、特に後半の審査は優劣つけがたく難しかったです。これは言語化が難しい上に主観になりそうですが、「イラストレーションの意識」を感じるか否かも一つの審査基準になりました。
特に一~二次審査通過を果たせなかった多くの作品についての総評ですが、既視感も含め、ある程度機能的で安心感が強い場合は、鑑賞者のひっかかりになる何らかの違和感を取り入れる工夫をした方が良いと感じました。一方で、内面世界の投影に終始している作品も少なくなく、色使いや視点、構成要素、作品によって状況は様々ですが、鑑賞者が共感できる要素作りの不足を感じることが多かったです。これら、何か足りない現状を打破する具体的な方法が難しいからこそ大変な苦労をするのですが、それを獲得できるか否かが結果に関わる分水嶺にも感じますし、そこを超えたレベルで、その人なりのバランス感覚に心地よさを感じる作品は評価が高かったように思います。もしかしたら、その有り様が、先に述べた「イラストレーションの意識」の正体なのかもしれません。今回の結果を受けて喜ばれた方も肩を落とされた方もいると思いますが、結果に関わらず、皆さんがご自身で納得のいく絵が描けることを願っています。

◆ 網中いづる
コンペの審査を通じて「すごく難しい!迷いに迷った!」というのが率直な感想です。応募作の多くが高い技術を持ち、すでに活躍している方も多く、その中から入賞作品を選ぶのはとても難しかったです。自分がいま応募しても、入賞はまったく無理だろうと思えるレベルの高さでした。審査では技術的な完成度や独創性、時代性などの視点が重要と思いますが、自分が特に惹かれる可愛い要素いっぱいの作品を選びがちなことにも気づきました。 手法が多様化し表現の幅が広がっている一方で、流行を意識した似た雰囲気の作品が増え、独自性が少し薄れているように感じられることもありました。これは最近の傾向でなく、時代性としてどのコンペでも見られることかもしれません。
大賞作品は色彩のインパクトが強く、どこか気の抜けた緩さと懐かしさがあり、明るさや安定感がよいと思いました。一次審査から二次、三次へと進むにつれて、魅力が際立って見えてきたのも印象的でした。今後の進化を楽しみにしています。

中村隆

◆ 中村 隆
二次審査からみんなどれも魅力的でうまかったです。
三次にいくとさらに。。
とても正直いって選ぶことに迷いました。
賞に入った作品も三次審査の結果では、最初は僅差でした。
それでも最終的な話し合いや、さらに回を重ねる投票で紙一重の中から、ぐんと差をつけて各賞が決まりました。
なんとなくな言葉で申し訳ないのですが、賞には、うまさにプラスした何か作品の持つ強さや、ひっかかりのあるものが選ばれたような気がしました。
ただ少し全体的にはガツンとやられるような作品には今回、個人的に出会えなかったような気もしています。
もっと何か壊してしまう、壊されてしまうような表現も見たかったです。
入選も、入選しなかったことも、きっかけにするのは、本人次第だと思いますが、どこかでまたこれからの作品に出会えることを楽しみにしています。

水沢そら

◆ 水沢そら
今回、実にたくさんの作品を拝見する機会に恵まれて、自分にとってもとても良い刺激をたくさんいただきました。
審査を終えての全体的な印象としては、幅広い表現の作品に溢れていた一方、過去にどこかで見たことがあるような表現も多かったです。
やはりと言いますか、こういったコンペはどうしても他と比較されてしまう性質だと思いますので、そんな中で独自の世界観や新しい視点を確立して、かつ複数点(少なくても3,4点)応募をしている方々が入賞、入選なさった方々に多かった印象です。
また残念ながら入選に至らなかった方の作品の中にも思わず目を見張るような力強い作品がいくつもありました。

極端な言い方になってしまいますが、一定以上のレベルの作品であれば、
例えば審査員が昨夜観て感動した映画の内容や、または当日の朝食に何を食べたか、で票を投じる作品が変わってしまう ”かも” しれないのがコンペです。
入選、入賞は一つの目安ではありますが、また同時に一つの指針にすぎません。一喜一憂せず、ではなく、一喜一憂しながらもたくさん作品を描きましょう。
今後、毎日の生活の中でみなさんのイラストレーションと出会えることを楽しみにしています。僕もがんばります。

本秀康

◆ 本 秀康
TIS公募の審査は数年前からオンライン上で行われるようになったそうです。
作品の質感などがPC画面からは受け取れないので、アナログとデジタルを区別なく同列に見ることができます。
原画で判断されないことはアナログの作家にとって不利にも思えますが、ことTIS公募においてはファインアートではなく、イラストレーションの観点から審査するべきなので、
(アナログに肩入れする自分としては悔しいですが)これが相応しい審査方法なのかもしれません。
そもそもイラストレーションかファインアートか、などという考え方が最早古いのですが、ここはTIS公募なので、クライアントの依頼を作風に落とし込めるイラストレータとしての力量を重要視して審査したつもりです。

山崎若菜

◆ 山崎若菜
初めて審査を担当させていただきましたが、イラストレーターとしての視点から「これが描きたい」という強い創作意欲や、独自の視点が際立つ作品を選びました。
1次、2次、そして最終審査と、何度も審査を重ねる中で初見の印象が変化し、何度見ても味わい深い作品が最終的に残ったと感じています。
特に1次審査を通過した作品は非常にレベルが高く、タイトルや作品の順番を工夫して、世界観を効果的に表現できた作品が2次審査に進んでいたように思います。
入賞された方々には自信を持って、今後も積極的に制作を続けてほしいです。賞を受けること以上に、自分の作品を信じて描き続けることの方が価値があると思うので
今回入選を逃した方々も、引き続き自身の作品を大切にし、創作を続けていただきたいです。