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2021.03.30

【レポート】TISオンラインセミナー「―書籍とイラストレーション―」

【TISオンライントークイベント】TIS school ー書籍とイラストレーションー
2021年2月16日(火)19時から【TISオンラインセミナー】「-書籍とイラストレーション―」がオンラインで開催されました。
出演は文藝春秋デザイン部の大久保明子さんとイラストレーターでTIS会員の網中いづるさん。
プライベートでも仲がいいというお二人が装丁と装画をテーマにたっぷりお話してくださいました。
◎大久保さんについて
大久保さんは小学校のころに担任の先生から薦められた「ナルニア国物語」がきっかけ本にはまり、それから図書館に通い始め、一週間で1人5冊までのところを家族の図書カードをつかって毎週20冊借りて読んでいらっしゃいました。
中学からは漫画ばかり読んでいて、絵は好きだけれど漫画家を目指すわけでもなくどうしたいかわからない、とりあえず美大に行こうと思い多摩美術大学グラフィックデザイン科に進学。
そして就職活動中に文藝春秋デザイン部の求人案内を見て自分は子どものころに本が好きだったことを思い出し、本の仕事が出来たらいいなと思い応募して見事に採用され装丁の仕事を始められました。
◎「蛇を踏む」川上弘美
 
文藝春秋デザイン部に入社した大久保さんが初めてご自身で装丁に使う絵を選んだのが芥川賞受賞作品、川上弘美さんの「蛇を踏む」でした。 芥川賞は文芸誌に載っているものが候補になることが多いため、「蛇を踏む」も文芸誌に載っていた段階での受賞だったのでそこから急ピッチで単行本の発売が決まり、絵を描き下ろしてもらう時間がなく、だれかのオリジナル作品を貸してもらうことになりました。
しかし編集者の方の推薦の絵はどれもピンと来ず、ご自分で画集などを探して河原朝生さんの作品を提案したところ採用されたそうです。
 
◎「乳と卵」川上未映子
 
「乳と卵」は「美術手帳」の展覧会お知らせページに載っていた吉崎恵理さんの3-4cmくらいの絵を見て採用を決めたそうです。他にも候補の絵がありましたが川上未映子さんご本人がこちらを選ばれました。
大久保さんは絵を選ばれる時、本の内容をそのまま描いた絵ではなく作品を読んだ人が後で見て「ああ」と思える絵を選ぶようにしている。純文学だとそのまま描くのではなく全体を内包している絵を選んでいると話されていました。
 
◎「美しき愚かものたちのタブロー」原田マハ
 
原田マハさんの指名でいせひでこさんが装画を描かれました。
絵を決めるときは編集者や著者が指名し話し合って決定してからイラスレーターに依頼がやってきます。また、著者の方が画家を指名されることもあります。ちなみによしもとばななさんはいつも「この人に頼みたい」という希望があるそうです。
 
◎「野ばら」林真理子、網中さんについて
「野ばら」は2004年に初版発行、2020年に表紙がリニューアルされました。
最初の単行本からリニューアル版の文庫もずっと網中いづるさんが装画を担当されています。 大久保さんは網中さんの描かれる装画について「網中さんはまず色がきれい。トリミング含め自由度の高い絵を下さるのでデザインが楽しい。表紙や扉にちりばめられる用の、さらっと描かれた線画も可愛い。」と話されました。
網中さんの最初の書籍の仕事のデザイナーが大久保さんでそこからお二人は何度もお仕事を一緒にされています。

リニューアル版の文庫の表紙の背景を白にといったのは大久保さん。網中さんいわく、大久保さんの指示は「風が吹いている感じ」「女性を描いてほしい」などざっくり言葉で伝えて、自由に考える余地を残してくれるとのことでした(※相手によるそうです)。網中さんはデザインの方向性、読者層など編集者の考えも聞ける最初の打ち合わせがすごく大事だと話されていました。
 
◎「図書館の外は嵐」穂村弘
 
大久保さんの最近のイラストレーションを使った仕事です。
著者の穂村さんと装画を描いたヒグチユウコさんが友人だったため描いてもらえたそうで大久保さん自身とても気に入っているそうです。「穂村さんは装丁が好きな方。装丁に興味を持ってくださるので楽しい」と話されていました。
 
◎網中さんから見た大久保さん
網中さんは大久保さんのことを「絵を見るのがすごく好きで楽しそう。愛があふれている。『好き』の範囲が広い。絵がこう来たからデザインはこうしよう!と受け入れてくれるので頑張ってよいものを産み出したいと思える」と話されていました。

大久保さんは「自分の中だけで作るよりお互い作用しあった方が良いものが出来ると思っているから」と話されていました。絵をもらった時に自分が「いい」と思った気持ちがモチベーションに繋がりすぐにデザインをしたくなるそうです。

また網中さんは「デザインされてイラストレーションが良く見えることがいっぱいある。この絵がこんなに素敵になってありがとうございますという気持ち」と話されていました。
 
◎Q&A
<大久保さんへの質問>
Q:大久保さんに絵を見てもらうにはどうすればいいですか。
A:今、対面で持ち込みを受け付けていないのでファイルを送ってもらう形になる。
文藝春秋のHPに住所が載っているのでデザイン部大久保明子宛に送ってもらえれば。
原画ではなく返却不要なA4サイズのファイルにまとめてもらえるとデザイン部の棚に置くことができる。
背には名前を分かりやすく記載してほしい。
Q:モノクロの絵でも装丁に合いますか。
A:モノクロで描いている方は結構いる。わりとモノクロの装丁はある。さっきのヒグチユウコさんもモノクロ。モノクロ線画にこちらで色を付けることもある。モノクロが無いということはない。
Q:大久保さんにイラストレーションを発注してもらうにはどうすればいいでしょうか。
A:装丁の仕事は一番最初が一番難しいのかな。一度仕事になるとそれを見た人から次が来る。単純に良い絵を描いていれば発注は来ると思う。最近はネットでも絵を探す。その時は頼まなくてもいい絵だなと思った人のインスタなどをブックマークしている。何かの時に思い出す。そういうストックがある。いい絵を描いていろんな人が見れる状態にしておくのが大事だと思う。
Q:動物の絵も使ってもらえますか。
A:動物の絵の(装丁も)あります。植物も。植物の絵好きです。
Q:小説を読んで気持ちが載らない時はありますか?そういう時はどうしますか?
A:いつも自分が好きな小説ばかりではない。それと装丁をどうするかは別の問題なので読むのがつらいということはない。ただゲラを読む速さは違ってくる。好きな作品はどんどん読んで最後は泣いたりもする。入り込めないものでもとにかく最後まで読んで考える。
Q:大久保さんはギャラの設定に対するイニシアチブを持っていますか。
A:会社で価格のガイドラインがある。昔の出版業界はギャラの話をせずに頼んで振り込むまで分からないことがあったが今はそんなことはありえないので最初にギャラを提示している。同じ絵を文庫に使うときは描き下ろしほどの値段ではないが支払う。電子版、外国語版に使うときも許可を取って使用料を払っている。
Q:ゲラを読む分もギャラに含まれますか。
A:絶対にゲラを読んでほしいとは強要していないので読まずに描いてもらってもいい。最後まで読まなくてもこちらでこういうものを描いてくださいと提案するので読めない時は言ってもらって大丈夫。
Q:今30歳ですが装丁家になりたいんです。なれますか。
A:私のように出版社に入る人とデザイン事務所に入る人がいると思うんですがどっちもちょくちょく募集をしていると思う。何歳とか関係なくデザインをやっていた方ならエディトリアルデザインもできると思うのでそういう募集があるときに行くのはどうですか。
Q:漫画絵を使うことが多くなっているのでイラストレーションの仕事は減っているのでしょうか。
A:文芸ではそんなに減っていない。書籍自体は刊行数は減っていないが部数が減っている。人文などはもともと絵が少ないのをさらに文字だけでやっているので減っているイメージはある。あと雑誌が減っているので雑誌のイラスト仕事は減っている。
Q:タイトル文字は大久保さんが描かれていますか。それとも画家さんに描いてもらっていますか。あと、好きな書体はありますか。
A:自分で描く時もイラストレーターに頼むときもフォントを使うときもある。フォントには流行がある。いちばんよくつかうのは「筑紫シリーズ」筑紫Aオールド、ゴシックだとA1ゴシックを使うことが多い。
Q:装画は、はじめから文字を意識して空間をつくって描くほうがいいのでしょうか。又は絵をトリミングされて新たに配置したりするのでしょうか。
A:絵のタイプによって、きっちり決める方もいるがそういう方はあとから動かすのは大変なのでラフをいただくのでラフの段階で文字を仮に入れて進めることが多くなった。あとはレイヤーで分けてもらえるとやりやすい。
Q:写真とイラストレーションは使い分けているのでしょうか。
A:まずは編集者の意向に重きを置いている。本をどう売りたいかがあるので。まずは編集者に確認しどっちでもいいと言われたら自分の中でどっちがいいか考える。
Q:ポートフォリオとしてお見せする場合、イラストとして完成しているものと、文字をデザインしていただくことを想定して、空白を作ってあるものでは、どちらが選びやすいでしょうか。
A:空白があるのは装丁にはいいと言われることが多い。余白が多い方が見る人が想像しやすい。余白を意識してそういう絵が多いポートフォリオはいいと思う。
Q:ポートフォリオには複数のスタイルの絵を入れた方がよいでしょうか。
A:その人らしさの見える絵で作風は1つ、せいぜい2つくらいの方がいいと思う。自分の得意分野でまとめたほうがいい。それに得意じゃない好きじゃない絵で仕事が広がっていったら自分がつらい。
Q:装丁に使用されやすい絵はありますか。
A:いろんなジャンルがあるので合わない絵は無いと思うが20何年やってきて何度も依頼する方は装丁に向いているのかなと思う。自由度が高く余白があって見る人が想像しやすい絵。網中いづるさんなどそういう方の絵は見た方がいろんなことを想像できるので装丁に使われているのかなと思う。 でも、ガチガチに決めた絵が使われないというわけではない。
Q:中堅イラストレーターになっても、ファイルをお送りするのはやはり効果的ですか。
A:新しいスタイルの時は送っていただければ。
Q:新しいイラストレーターを探す機会はありますか。また、イラストレーターを探す際はどんな方法で探すことが多いですか。
A:いつでも常に新しいイラストレーターを探している。どこかで見たもの例えばチョイスのページとかちょっとだけ載った絵も記憶にある。名前を検索したときにすぐに自分の絵がたくさん見れるものを用意しておくのがいい。
Q:装丁デザインの際に、タイポグラフィで気をつけていることはありますか。
A:今は文字があえて読みづらい装丁も多いが著者名とタイトルはきっちり見せねばならぬという気持ちがある。
Q:装画を依頼するときに、表紙や別丁扉も変化をつけたく、別で描いて欲しいなと思うことがありますが、予算的に1枚の書き下ろししか難しいかな、と思ってなかなか言い出せません。装画を依頼する側として注意することを教えてください。
A:表1だけかどうかによっても値段が変わる方もいる。点数が増えるときはこちらから言う。
Q:イラストレーターさんに頼んだ時点で編集者や著書からNGが出てしまうことがありませんか。
A:NGが出る前に候補をだして確認している。編集者と著者のOKが出たら発注する。初めての方だとその方のオリジナルの絵の候補をキープしてもしかしたらこっちの絵になるかもというお願いの仕方もする。
Q: 森見登美彦さんの装丁は、(本からヤシの木が生えている)どのような制作過程だったのか興味があります。
A:森見さんの「熱帯」は田中達也さんに作品を読んでもらって作ってもらった。田中さんが朝ドラの関係の展示をやっていたので編集者と展示を見に行ってこんな感じがいいとお伝えした。撮影も田中さんに依頼した。写真をもらったときに希望を伝えて色の調整をしてもらった。
Q:描き下ろしの装画のお仕事の場合、打ち合わせから本イラストの納期まではどれぐらいお時間があるのでしょうか。
A:打ち合わせからイラストの納期は1か月あれば失礼でないだろうと思っている。3週間、2週間だと申し訳ないという気持ちでやっている。
Q:漫画家に装画を依頼することが世の中で増えていきそうな中、イラストを志すことに少し不安を感じていますが、モチベーションをどんな方向で保っていけば良いでしょうか。
A: がんばって描いていいイラストを描いていれば絶対仕事はある。絵の流行はあるがいい絵はなくならない。TISの方は仕事がずっと続いていて変わらない良さがある。
Q:デザインを勉強するのに、学校に入らず独学で勉強したいのですが、何か教科書になるような、お進めの本などはありますか。
A:実際の作業ならIndesignやIllustratorなど検索すると大体親切な誰かが教えてくれている。それとは別にいいデザインや絵をたくさん見ることが大事。
 
<網中さんへの質問>
Q:網中さんはどれくらいゲラを読みますか。
A:全部読みますよ。めちゃくちゃ読みます。読まないと何も考えられない。
Q:装画を描く時テキストを意識しますか。心がけていること、注意されていることを教えて下さい。
A:手に取ってもらいたいというのがある。書店では表紙は面置きのカバーでもちらりとしか見ないと思う。大久保さんも言っていたが「ぱっと見良くて、近づいたら更にいい」ものがいい。店頭で見た時に内容のムードが伝わる分かりやすさは大事。どう伝えたらいいのか、色やモチーフだったりいろんなことがあるわけですけど、打ち合わせやラフのタイミングで相談して決めています。
Q:私はイラストレーションの品質にばらつきがあります。網中さんはうまくいったときうまくいかない時はありますか。
A:うまくいかずに悩むことは多いが、仕事では完成イメージの着地点があるのでまったくのオリジナルよりはブレずに描ける。「網中さんってガーリーな絵を描きますよね」と言われたらそういうのが求められているんだと思うのでタッチというか方向性が決めやすい。品質はわからないが仕事が仕事につながってやってきているので......。
Q:制作のモチベーションの維持、迷いがでたらどうしますか。
A:筆は迷っていないと言われるがいつもめちゃめちゃ迷っている。でも迷うのは目が肥えてきて、こうやりたいというのがあるからでは?たくさん描けばいいかな。描くしかない。
Q:インスタのフォロワーが少ないからイラストレーターとして大丈夫なのか。
A:フォロワーがいっぱいだから仕事をいっぱいやっているかというとそういうことでもないと思う。
Q:自分の描くイラストレーションの品質にバラつきがあり悩んでいます。 装画を描いていて、上手く行った時と満足できない時(もしありましたら)の割合はどれくらいありますか。
A:ばらつきはあると思うけど描くんです。私もいっぱい、あきれるほど描いて、「いい」と思えるものが出てくるまで粘れるだけ粘る。経験で確率が上がってくる。この一枚で決めなくちゃと思うと緊張するから何枚も。あと、描いて朝まで置いて、最初に描いたのでいいじゃんと思うときもある。
Q:装画を描くときはテキスト(タイトルや著者名)を意識して描いていますか。 また心がけていることや注意した方がいいことなどありましたら、お伺いしたいです。
A:考えたり考えなかったり。長いタイトルだとラフの段階でどこに入れるかを確認したり。大久保さんはラフに入れ込んでくれるので調整しやすい。トリミングしやすいように背景を広めに塗り足すことは多い。
Q:編集者からの依頼とデザイナーからの依頼では何か違いはありますか。
A:編集者からは条件が依頼時にあることが多い。内容に関しては装丁家と直接やりとりが多い。
Q:大久保さんが他の装丁家と違うところはどこだと思いますか。
A:大久保さんは出版社の中のデザイナーで、担当する本のジャンルが幅広く、イラストレーションもさまざまなものを起用していると思う。どんな絵でも楽しくのびのびと使ってくれる印象。そして堂々としたデザインでありながら、上品なのが大久保さんです。
Q:AdobeFrescoを装画で使うご予定はありますか。
A:結構あります。今でもあります。
装丁のお話や仕事に対する姿勢、思い出話まで話題は尽きずあっという間に2時間半が経っていました。
大久保さん、網中さん貴重なお話をありがとうございました。