COLUMN
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Adobe × TIS  Trend & Illustrations

2020.01.16

Trend & Illustrations #1/長谷川慶子が描く「All Ages Welcome」

アドビが予測する2020年のビジュアルトレンドをテーマに、東京イラストレーターズ・ソサエティ会員のイラストレーターが描きおろした作品のコンセプトやプロセスについてインタビューする連載企画。第1回目のテーマは「All Ages Welcome」。絵をとおして女の子にエールを送り続けたいと願う長谷川慶子さんにお話を伺います。

 

プロフィール



長谷川慶子
Keiko Hasegawa


1975年岡山県生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。
出版社を退社後、イラストレーション青山塾で絵を学ぶ。
主な受賞歴に第10回TIS公募入選、長友啓典選「わたしの一枚」。

https://www.tis-home.com/keiko-hasegawa/

 

アドビが予測するトレンド

──アドビでは、ストックフォトサービス「Adobe Stock」で前年度に比べて成長率の高いキーワードの調査を行うなどして、ビジュアルトレンドの動向を予測しています。

いくつか説明いただきましたが、私が興味を持ったトレンドの1つが「All Ages Welcome」。シニアに対するイメージの変化に関連したものでしたよね。

──Adobe Stockの利用者は広告物のために使うケースが多いのですが、金融、ヘルスケアといったジャンルはシニア層がターゲットに入ります。若い人に支えられるような従来のイメージから変わってきていて、品よく、元気に歳を取り、自立して人生を楽しむイメージが英語圏では強く支持されてきています。

お孫さんと一緒におしゃれな服を着たり、自由に旅したり、年齢を気にすることなく、はつらつとした感じですね。

──今後、日本でも変化が予想されるイメージに対して、ビジュアルを作る側はどう応えていくか。Adobe Stockに興味を持つ方々、利用者の皆さんへ分かりやすくテーマ性を伝えられることを期待して、今回は長谷川さんにトレンドに基づいた作品の制作を依頼しました。

ありがとうございます! うまく期待に応えられているかドキドキしていますが、楽しく取り組みました。完成した作品もお持ちしましたので、ご覧いただきながらお話できればと思います。

「死ぬまで女の子同盟」

すべての女の子たちにエールを送りたい

──「All Ages Welcome」というテーマを受け取ったときの印象はいかがでしたか?

最初はむずかしそうだと思いましたが、自分が絵をとおして伝えたいこととリンクしているなと感じ、そこからアイデアを広げていくことが出来ました。伝えたいこと、というのは「女の子であることを歓び続けていこうよ」というメッセージです。身体の性が女性である人だけではなく、自分の中には女の子の心が息づいていると感じているすべての人に対して。精神的な少女性を持ち続けたまま歳を重ねていくことが、当たり前の世の中になるといいなぁと思っています。「All Ages Welcome」で提示されているような、元気にアクティブに、年齢を気にすることなく人生を楽しむシニアの方々の姿は、まさに私が願う世界のあり方です。
 

 
──精神的な少女性を持ち続けることが、むずかしい場面はこれまでありましたか?

これまで生きてきて、世間からの圧力を感じる瞬間が無数にありました。言葉として聞こえてくることもあれば、言葉はなくて空気を感じることもあって……。女の子は愛嬌よくかわいくしていればいい。女の子が意見するものじゃないよ。女の子がお酌をしなくてはいけない。奥さんになったら派手な色の服や丈の短いスカートを着るのはよくない。お母さんになったのに大きなアクセサリーなんかつけて。「歳を取ってるのにあんな色のマニキュアしちゃって、イタいなぁ」といった声を街で耳にすることもあります。

そういう世間の空気を読んで、“ちゃんとした女性”と思ってもらえるよう振る舞っていた時期が長くありました。つらいな、嫌だなという気持ちがどんどん積もっていって。娘を出産してから「もう世間にはどう思われたっていいや。一番大切な家族にさえ誠実でいられればいい」と考えるようになりました。これからは自分の気持ちを優先して、大切にしようと思えた。いくつになろうが自分の好きなようにすればいいじゃない、と。ずーっと死ぬまで女の子の心を持っていたっていいじゃない、と。だから、女の子にとっての、私にとってのユートピアな世界を描いて、ずーっと死ぬまで女の子でいたい私と誰かを、応援し続けていきたいなと思っています。

女の子でいることって、つらいこともあります。容姿の美しさで語られたり、かわいく大人しくいることが求められたり、お母さんになれば家事や1人での育児の負担が大きかったりとたいへんなこともあって、本当に擦り減ってしまう。……でも、女の子でいることには、素敵なことやハッピーもたくさん詰まっている。一緒に女の子の幸せな世界を楽しんでいこうよ、と絵をとおしてエールを送り続けていきたいです。

──絵のなかの人物はどのようなイメージで描きましたか?

向かって左の人物は10代後半の女の子で、右の人物はシニアの女性。右側の女性のような年代の人を描くのは初めてで心配な部分もありましたが、この年代の女性ならではの美しさを表現出来るよう心を砕きました。彼女たちが手にしているぬいぐるみやマカロンは、少女性を表すアイテムとして私が描く絵の中によく登場させます。「いくつになっても、自分の中の女の子の部分を大切に愛していこうよ」という思いを絵のなかに込めました。
 

あやとり

「あやとり」

大切にしている作品

──強く影響を受けた作家について教えてください。

イラストレーション青山塾でご指導いただいた作田えつ子(えつこミュウゼ)先生の絵がすごく好きです。かわいくて、カッコよくて、美しくて。清濁あわせのんだ唯一無二の世界にギュッと心が掴まれます。私の作品に大きく影響を与えてくれた方です。

画家・安藤正子さんの作品も大好きです。描かれる世界の素晴らしさはもちろん、お子さんをそばにおきながら日常生活の一部のように絵を制作されているところにも興味があります。

──描いてきた絵のなかで、特に大切にしている作品はありますか?

2011年に描いた「ティータイム」という作品です。第10回TIS公募で長友啓典さんが「わたしの一枚」に選んでくださって。審査のとき、私の作品の前に立ってずーっと眺めていらっしゃったと後日聞いて、とてもうれしかったです。私の好きな世界を、同じように好きになってくれる人がいるんだ、というこの上ない歓びを知った、初めての経験でした。その後、いろいろと人生の転機を迎えて、イラストレーターをもう辞めようかと思いつめることは何度もありましたが、そのときの幸福感が私を励まし続けてくれました。
 

「ティータイム」

「ティータイム」

これからの目標

──今後の目標を聞かせてください。

子育てがもう少し落ち着いたら、初個展を開きたいです。2年後くらいを目指しています。お仕事としてはお菓子の箱や包装紙などのイラストレーションを手がけたい。それといつか大好きなファッションに関わるイラストレーションのお仕事が出来ればと願っています。世界観に強く惹かれているシモーネ ロシャ(SIMONE ROCHA)といつか一緒にお仕事出来たらいいなぁ……と夢見ています。

──Adobeのツールで何か気になっているものはありますか?

作品をスキャンした画像を手直しするのにAdobe Photoshopを使っています。Adobe Photoshopには便利な機能がいろいろありますので、自分の絵をもっとよい形で世界に対してプレゼンテーション出来るよう、現在勉強中です。

また、昨年行われた「Adobe Max Japan 2019」に参加してライブドローイングを観て以来、Adobe Frescoにたいへん興味を持っています。早速iPadとApple Pencilを購入し、現在試しているところです。いつでもどこでもすぐに絵を描けて、しかも実際に絵具と筆を使っているかのように描けるところが素晴らしいです! 近々、Adobe Frescoで制作した絵も発表出来ればと思っています。

「うっとり」

「うっとり」

HOW TO DRAWING

長谷川慶子さんの作品「死ぬまで女の子同盟」の制作過程を、ご自身で解説します。

 

1. まずは、モデルの写真資料を用意。身体については、下着姿になって大きな鏡の前でポーズを取り、鏡に映った自分の姿をスマートフォンを使って自分で撮影。身体が美しく見えるポーズを探ります。今回は、ハイヒールとぬいぐるみとスツールを小道具に。


2. 人物の顔については、雑誌などから好みの写真をいくつか用意し、「この子のホヤっとしたまゆ毛がいいなぁ」「こっちの子の目が好き」「鼻はこの子の強情な感じを」などとミックスしています。そして「もうちょっとふっくらしたくちびるにしよう」と自分の好きなように変えながら、自由に描いています。著作権や肖像権を侵害しないという大きな目的のためでもありますが、このように描いていくと、自分がほしい顔を作っていける気がしています。


3. 下絵をトレースして、人物の肌から塗っていきます。肌の下地として、まずベージュがかった黄色から。


4. 次に、白っぽいベージュをごく薄く何度も重ね、自分好みの色合いの肌を作っていきます。


5. 渋い紫色で人物のアウトラインを描き、顔のパーツも入れます。


6. どんな色にするか決めている箇所から、どんどん塗り進めていきます。


7. ドレス、靴、ヘッドドレスを加えて……


8. ぬいぐるみとマカロンを描き、ひとまず人物は終了。


9. 今度は、ブランコのロープを装飾していきます。


10. 描くべきものはすべて描きいれました。でも、蝶が落ち葉に見えるので……


11. 翌日、蝶の色味を修正し、全体の色味を整えて完成です。



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